豊海健太 個展
幽宴-継承する漆の骨-
会期:2020.11.28(Sat)-12.18(Fri)
作家在廊日:11月28.29日 12月5.6.12.13.18日
漆には「継承性」が内在すると考える。本展覧会では伝統文化や技術を引き継ぐ意味とはまた別に、漆の「継承性」について捉え直す機会としたい。
漆は縄文時代からの歴史があり、現代までその文化が続いている。世代を超えて、引き継ぎ、伝えられる、この漆の潜在的な性質は「継承性」ではないだろうか。この「継承性」を考えるにあたり、心理学者エリクソンの「Generatibity (ジェネラティビティ)」という言葉を借りて考えたい。
「Generatibity (ジェネラティビティ)」とはエリクソンの造語である。エリクソンは人間の発達段階を8段階に分け、Generatibityはその7段階目にあたる。人が成年期にはいり、出産を含め、色々なものを生み出す時期であることから、「生殖性」 という訳語が多く用いられてきた。
今日ではGeneratibityは生殖のみを指す概念ではなく、広く次世代を育て世話するという概念から「世代継承性」「世代性」という訳語が用いられている。
漆は自然の樹液であることから「生命感」という言葉が用いられやすい。しかし、私はこの言葉に違和感を感じていた。漆が人々の暮らしと密接に関わっていた時代であるならば、漆に関わる様々な行為(採取、塗る、使う)から自然の恩恵、崇拝、畏敬、そして、そこから生命を見出すことは純粋であり、漆のアニミズムとしても捉えることができるだろう。しかし、漆文化とは疎遠になった現代の社会において、自然素材である漆に対して安易に生命感を求めることは私自身にとって詭弁に思える。ただ、制作過程や作業の行為から漆に対して生命感のようなものを感じることは否めない。では、この曖昧な生命感の要因は何であるのか。
前述したGeneratibityの概念を踏まえると、縄文時代から現代まで、人が漆を次の世代へと伝えてきた「生殖性」「継承」の連鎖が漆の「生命感」に繋がる要素のように感じる。漆は「継承」という使命感を人間に与え、働きかけ、生きていく存在なのかもしれない。