大森暁生と工房スタッフ展 —はずみ—
会期:2019年5月18日(土)~31日(金)
大森 暁生
長久保 華子
山本雄大
白谷琢磨
東嶋賢一
自身の作品づくりに、スタッフと共に仕事をするいわゆる「工房制」を導入して約8年になりますが、
このたび館・游彩さまからのご厚意により初めて工房スタッフ達との合同展を開催することとなりました。
彼らはいまや制作に欠かせない存在ですが、反面、彼らにとって工房とは決して生涯居続ける場所ではありません。
各々が工房での経験や体験、お世話になる方々との貴重なご縁によって自らに“はずみ”をつけ、
やがていつの日か独り立ちして行くことを目標としています。
工房から巣立つその日の為に、日々足元をしっかりと固めてきた者はそのぶん“はずみ”をつけより一層高く跳び上がることが出来るでしょう。
そのような思いから、今回“はずみ”という言葉を共通テーマとして掲げ、各自新作を制作いたしました。
ぜひ忌憚のないご意見をお聞かせ頂けますよう、工房主としてお願い申し上げます。
D.B.Factory 代表 彫刻家 大森暁生
■大森 暁生
1971 東京都生まれ
1996 愛知県立芸術大学美術学部彫刻専攻卒業
1995〜2002 彫刻家 籔内佐斗司氏の元 工房スタッフを務める
1999 荒川区町屋に工房 D.B.Factory 開設
2005 工房を足立区北千住に移転 現在に至る
国内外のギャラリー、百貨店、アートフェア、美術館等での発表に加え、
多くのファッションブランドとのコラボレーションなど幅広く作品を発表。
フォトエッセイ+作品集『PLEASE DO DISTURB』(芸術新聞社)
大森暁生作品集『月痕 つきあと』(マリア書房)を刊行。
【 テーマ“はずみ”に対しての解釈 】
キツネが雪底に潜む獲物に狙いを付け宙高く跳ね上がり、
カラダをしなやかにくの字に折り曲げ頭から雪のなか目掛けて飛び込む、
その一瞬の姿を制作致しました。
雪底深くまで一気に潜るために高々と「はずみ」をつけるキツネは、
きっと凍てつく寒さの中なんとか食べ物を確保しようと必死なのでしょうが、
その姿はまるで雪と戯れ心を「はずませ」無邪気に遊んでいるようで微笑ましく思えます。
【 初めての試み 】
今日まで、鏡の特性を利用し、時にモチーフを「空」に羽ばたかせ、
時に「蜘蛛の糸」を垂らし、そして「水面」に見立てたこともありました。
今回、初めての試みとして「深雪と舞い上がる粉雪」を、鏡の創り出す空間に描いてみました。
■長久保 華子
1988 東京都生まれ
2014 東京藝術大学 美術学部 工芸科 漆芸専攻 卒業
2016 東京藝術大学大学院美術研究科 彫刻専攻 修了
2011年より D.B.Factory にて
彫刻家 大森暁生氏のアシスタントを務める
【 テーマ“はずみ”に対しての解釈 】
“はずみ”という言葉を受けて、
現在の自分は、言葉のイメージそのままに飛び上がっているというよりは、
それよりも前(未然)の段階にあると思いました。
ライオンの作品「Linden」は菩提樹 (悟りの知恵) の芽がこれからどうなるのかを見守っています。
兎の作品「月へ至るまで」は〈飢えに苦しむ老人へ 自らを食料として捧げる為に
燃えさかる炎の中に身を投じ、のちに月へ登った〉という兎の逸話をモチーフにしています。
どちらも“なにか”になる前段階という状態です。
ライオンや兎は、なぜそのような思想を持つに至ったのか、
想像しながら制作いたしました。
【 初めての試み 】
大森暁生先生のスタッフとして参加させていただくにあたり、
今までに工房で目にしてきたものをオマージュとして取り入れるということを新たな試みとしました。
今回は、大日如来制作の際に彫らせていただいた獅子、
そして大森作品で度々描かれる“炎”を自分なりに表現したらどうなるか、といった点を
もうひとつのテーマとして制作しています。
■山本 雄大
1986 静岡県生まれ
2015 東北芸術工科大学 大学院 彫刻領域修了
2017 東京藝術大学 彫刻科 研究生 終了
2016年より D.B.Factory にて
彫刻家 大森暁生氏のアシスタントを務める
【 テーマ“はずみ”に対しての解釈 】
今回私は“はずみ”というテーマを元に、モチーフとする生物が、
動きとしてはずむだけでなく、その瞬間の「変化」をイメージし、表現する事に取り組んだ。
【 初めての試み 】
そしてその「変化」の表現の1つとして、
今回は「箱根寄木細工」の技法を新たに試みた。
組み木で制作する事が多いと私にとっては、
今後さらに技術の習得や応用、仕事での経験を生かし、自分らしい表現を見つけたい。
■白谷 琢磨
1994 佐賀県生まれ
2019 東京藝術大学美術学部彫刻科 卒業
2019 東京藝術大学大学院美術研究科 彫刻専攻 在学
2017年より D.B.Factory にて
彫刻家 大森暁生氏のアシスタントを務める
【 テーマ“はずみ”に対しての解釈 】
私は制作において日頃、静けさの中にありながら
己をしっかりと刻みこむしたたかさを持っていたいなと思っています。
地面と空に手を伸ばす一本の木のようにありたい、とこれまで
樹木をモチーフにした作品を多く作ってきました。
今回は“はずみ”という共通テーマを頂き、思い浮かんだのは
何かのきっかけのあとに残される波紋や砂埃、突き破られた跡、クレーターなどでした。
最初は小さなきっかけでもその影響はより遠く、長く、深く広がることもあるのではと
思い波紋や植物が力強く確実に広がっていく様を作品に取り入れました。
【 初めての試み 】
「水面に立つ」は作品として初の試みとなり、展示形態を普段より大きく変えています。
断片的な記憶や事柄が心の中で響き合うイメージを木材や漆を使い形に表しました
■東嶋 賢一
1995 福岡県生まれ
2016.7~2017.12 株式会社 明古堂にて仏像修復技法を学ぶ
2018 武蔵野美術大学 彫刻学科 卒業
2017年より D.B.Factory にて
彫刻家 大森暁生氏のアシスタントを務める
【 テーマ“はずみ”に対しての解釈 】
「 勢夢 -hazumu- 」
上部に取り付けた垂飾をキラキラと輝く「夢」に見立てそこに到達しようと
跳ねている出目金を現在の自分自身に見立て
大森暁生先生の元でのアシスタントとして経験させて頂いていること、
自分の制作を通じて経験したことを生かし、少しずつ夢へと近づいていく様子を表現しました。
「 尾那伽魚 -陽光照- ・ 尾那伽魚 -月光照- 」
日夜制作に励みながら
夢に近づくための跳ね方(=自分の表現方法や発表形式)について
太陽(=昼間、大森暁生先生の元でのアシスタント経験)と
月(=夜中、自分の制作による経験)に照らされながら試行錯誤している様子を表現しました。
【 初めての試み 】
垂飾の一部のパーツを木彫と真鍮、漆にて
原型を制作し、その原型を元にゴム型を作成、真鍮鋳造にて複製する技術を取り入れました。